今回、究極のトラス望遠鏡を見ることができ、感動に震えました。
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上の写真はTelescope Walkaboutでのひとこま。
製作者の名前を聞き洩らしたのですが、ベテランの自作好きの人のようです。

トップリングから途中の水平部材(小さな径の鉄パイプ)まで伸びている8本の長さ50cmほどのワイヤーはトップリングによる曲げやねじりによる引張荷重を受け持ちます。

そのワイヤーを繋ぎ止めているのが4本の水平部材の鉄パイプで、これは圧縮荷重を受けます。そしてその水平部材から下部のミラーボックスまで伸びている1mほどの8本のワイヤーがやはり引張り荷重を分担するというものです。

トップリングからミラーボックスまでを鏡筒と見做すと鏡筒の上から1/3のところにある水平部材の部分で、鏡筒が膨らんでいますね。
ここがこの望遠鏡のミソで、このようにワイヤーの取り付け角を大きくすることにより、写真で製作者が赤い紐でも示しているようにトップリングをあたかも赤い紐の先端で引張っているようにできるのです。
これまで多くのワイヤー式望遠鏡(ストリング・スコープ)は紐が仮想鏡筒の内部にあったので、トップリングのねじりに弱く、重いアイピースを取り付けることができませんでしたが、これなら大丈夫そうっていうか、触ってみたら凄い剛性感でした。

そびえ立つ木が倒れないように、木の先端に結んだ4本のロープを地上から引張る場合、できるだけ木の幹から離れたところ(木とロープの角度が鈍角になるような場所)で引張る方が楽ですよね。その原理です。

製作者は構造力学を利用してトラスの各部材に働く力を計算しており、水平部材が上から1/3のところにあるのは水平部材から上のワイヤーと下のワイヤーにかかる荷重を等しくするためだと説明していました。
また、トップリングに重いファインダー等を加える場合は圧縮部材の棒のサイズアップが必要だとも述べていました。既にそこまで計算しているようです。(構造力学を学んだ人ならこんな計算、1時間もかからずできちゃいますけどね。)

このコンセプトの採用によりこれまでのトラス棒を使ったドブよりさらに軽い望遠鏡が作れます。これは凄いことですね。

実はこのイベントの前にも私は斜鏡支持金具をワイヤーで支えている望遠鏡の作者に同様の説明を受けており、どうやらOSPの参加者の間でストリング・スコープの設計方法が固まりつつあるようです。流石ですね。
これまで多くの人がストリングタイプの望遠鏡で失敗してきたようですので、その人たちにとって朗報だといえます。

私も構造技術者の端くれですから言われたことは充分理解できるのですが、これまで発想することができませんでした。

話が若干それますが、The Dobsonian Telescopeという本で紹介しているクラシックタイプのドブが未だにアメリカで多くを占めているのは、その本が各構造コンセプトの定量的な評価(強度、剛性計算)をしているからなのです。
ですからThe Dobsonian Telescopeに書いてあるコンセプトと異なるコンセプトを採用する場合は、具体的な寸法を用いた計算を行わないと危険です。

もちろんトライ・アンド・エラーでも良いのですが、それだと結構時間がかかると思います。(趣味なんて時間のことは気にしなくても良いのかも知れませんし、他人と一緒じゃ満足できない人もいますから、強くは申しませんが)

OSP参加者で見え味の良い望遠鏡を製作している人の多くは、Structural Engineer(構造技術)かMechanichal Engineer(機械)に関する仕事をしているようです。(こちらでは良い望遠鏡を見かけると職業を尋ねることが多いため、そういった情報を私も得ることができました。)
ですから彼らはそれなりに強度・剛性計算のようなことを行っているようです。もちろん私もドブ製作前に計算しましたよ。

欧米の天体望遠鏡制作メーカーの人が、他のメーカーとの差別化を図るため、The Dobsonian Telescopeで紹介されている主鏡支持構造やトラス構造は古い!というコメントをしながら、自分が考案したコンセプトを紹介することがよくありますが、気を付けた方が良いですよ。
でっちあげの星像テスト結果なんかも載せたりしますので、つい信じてしまいますが、、。最近も怪しい星像テスト結果を発見しました。(ここでは紹介しませんが)