双望会同窓会でオリオン大星雲の観察をした後、米国オレゴン州のHoward Benich氏によるカラーのスケッチ(70cmF4のドブ使用:”Sketching the Orion Nebula atthe Telescope”等で検索すると出てきます。) を見た人が質問してきました。


 

「このスケッチは6時間もかけたらしいけど通常スケッチっていうのはちゃちゃちゃっと短時間で描くもんじゃないの?」

 

米国の辞書によるとSketchとは、

a simply or hastily executed drawing orpainting, especially a preliminary one, giving the essential features withoutthe details.

簡潔にさっさと描いた絵で本質的な部分は描かれているけど詳細については描かれていないものという意味です。

 

Howardのスケッチは詳細もしっかり描かれているので上の定義に当てはまらないような気がします。

そこで彼も所属しているAstronomical League(米国の200以上の団体(同好会)を束ね、会員数が16,000名以上の大組織)のサイトに載っていたスケッチに関する記述について調べてみました。

  

まず、少し話がそれるけどスケッチすることの利点は以下の通り。

Sketching requires the observer to slowdown long enough to record what is being viewed.

As a result, amateur astronomers developtheir observing skills as they see finer details in the objects theysketch. 

観察者が観ているものをスケッチとして記録する為にじっくり観察することが要求される。

その結果として対象の詳細をじっと観る観察能力が養われていく。

 

Sketching provides a permanent record ofobservations. Details that may be difficult to put into words can beillustrated on paper.

スケッチは永遠に残る観察記録である。文章にし難い詳細も絵なら表わすことができる。

 

It is enjoyable for observers to go back tooriginal observations as time goes by & see how their skills have changedas well as their ability to record details.

スケッチを後日見返すことで自分の観察スキルやスケッチ能力の向上を実感できて楽しい。

 

A sketch can bring back vivid memories ofthe observation in a way words written may not.

スケッチは観察時の記憶を生き生きと蘇らせる。(文章だけではそうはいかない)

 

While photographs may bring out beauty& detail of an object, they do not adequately record what is actuallyobserved at the eyepiece by the individual.

写真は観たものの美しさや詳細をもたらすが、観察者がアイピースを通して観たものの充分な記録にはなり得ない。

 

Sketching brings about a feeling ofaccomplishment at having created a lasting impression of the objects observed.

スケッチという観察した天体のいつまでも残る印象を創作したということで達成感を味わうことができる。

  

また、こんなことも言っています。

 

The Sketching Observing Award Program wasnot created specifically for "artists."

It is for everyone regardless of the levelof experience or artistic ability.

So before you say "but I can't sketch”you may surprise yourself over time with a little patience, care, and practice.

スケッチは芸術家を養成するものではなく、スケッチの経験や能力など関係ない。

私はスケッチできないと言う前にちょっと我慢して練習してみると自分でも驚くほどできるようになる。

 

 

そして上記利点を得る為にAstronomical Leagueは以下に示す若干の制限事項を示しています。

 

The sketch must have been drawn at theeyepiece.

スケッチはアイピースを通して観たものを描かれなければならない。

 

It is acceptable to clean up sketches inbrighter light (remove smudges, correct elongated stars, etc.).

スケッチ後、明るいところではクリーンアップ(汚れ取り、星の形修正)のみ許される

 

Digital manipulation is allowed. Somesketchers prefer to “invert” (i.e., take the negative) of their work.

デジタル処理(スケッチの白黒反転)はOK

 

Sketches from photographs are not allowed.

写真からのスケッチは不可

 

 

どうやらAstronomical Leagueが定義しているスケッチとは、望遠鏡でしっかり観察して描くものを指しているようですね。

 

そういう意味ではHowardの作品もスケッチと呼ぶことができますし、彼の70cmによるスケッチは一見大きな望遠鏡で観たとは思えないほど地味(デフォルメがない)ですが、写真による(派手になりがちな)情報を排除し、自分がアイピースを覗いて感じたままを忠実に再現しており印象的な素晴らしいものとなっています。

 

 

上記制限事項に対して「趣味なんだから美しく仕上げるために後で写真を見て形を整えたり、デフォルメしたりするのは当人の勝手だろ!!」

という人も出てきそうですね。インスタ映え狙い、、。結構なことです。

「すごーい、XXさんのスケッチ、写真みたい!!」と言われたい気持ち、わかります。

でもAstronomical Leagueはそういったものをスケッチと呼んでいません。

スケッチはあくまで望遠鏡を通して目で観たものを描くものであって、写真を見て描く模写(Copy)や記憶を頼りに後で修正するイメージ画とは区別しています。

そもそも写真は実際に目で観たものとは異なりますし。

 

 

ところで天文に限らず目に映ったものをカバンから取り出したノートにちゃちゃちゃっとスケッチする人って素敵ですよね。

海外の美術館ではそういう人をよく見かけますし、6月のパリのライブハウスではミュージシャンが演奏している姿をサラサラとスケッチする美女にも遭遇しました。

周りの人との会話を楽しみながら数分で仕上げてさっさとノートをしまっていました。

そうそう、双望会同窓会でもいましたよ。Yさんです。彼女(と表現すると特定できちゃうかな??)は私の45cmドブを覗いた時に小さなメモ帳にオリオン星雲の様子を描いてたっけ。

短時間でもしっかり観察して描いているので、これもAstronomical Leagueの意味するスケッチと同等でしょう。

 

でもパリのお洒落なライブハウスでスケッチしている人が途中で写真撮ってそれを見ながら描いていたらどう思います?なんだ、模写してるだけじゃん!って思いませんか?

まあ、趣味なんだからどうでも良いのですが。

 

 

私も以前にAstronomical Leagueに所属していましたから、写真のイメージをできる限り排除して天体観察を行っています。

参考として数年前に私が自宅で描いたM42のスケッチを紹介します。写真のイメージとは異なるでしょ。コントラストも低いし。

M42_Sketch
光害の多いところなので45cmを使ってもあまり詳細把握ができませんでしたが、それでも3時間かかりました。トラペジウムの配置がいま一つなのはご容赦ください。

 

翌日、そのスケッチをPCに取り込んだものを使って望遠鏡を覗きながら”PCで色付けしたものを以下に示します。

部屋を暗くしてご覧いただけたら僅かに色がついたところがおわかりになると思います。

 M42_Sketch_Color

 

また、2010年のTableMountain Star Party Observing Programの課題として選ばれた55個の天体を観た証拠として私が行ったスケッチの一部を紹介します。
Sketch_NGC5907_2010_8
これらはそれぞれ56分くらいでちゃちゃっと描きました。後の修正は行っておらずPCで反転したのみです。

スケッチした翌日にParty主催者の審査員に全55天体のスケッチを確認してもらい、写真のPINバッジをGETすることができました。

 badge2

9年経った今でもその時の状況が思い出されます(Vivid Memory)。

 

さあ、皆さんもスケッチをやってみませんか?

観察眼が養われることに加えて良い記念になりますよ。

 

次回は10年近く前に私のホームページで紹介した天体スケッチテクニックを載せます。