今回は組立・分解式の小さな望遠鏡ならではの、かなり専門的な設計思想の話です。

 

航空機の設計に関するヨーロッパや米国の航空局の要求の中に「Abuse Loadを考慮すること」というのがあります。

Abuseって虐待みたいなイメージがあるのですが、構造設計の観点では「通常ではあり得ない間違ったハンドリング(操作や運搬)荷重」を示します。

例えば整備士が高いところでの航空機の整備中に梯子から落ちそうになり、慌てて小さなアンテナを掴んじゃったというケース。この時アンテナに作用するのがAbuse Load

通常アンテナには地上滑走中や飛行中の空気力や自重による慣性力くらいしかかかりませんが、落ちそうになった人が勢いよく全力でアンテナの一部を掴んだ荷重は空気力や慣性力より大きいのです。

これってレアなケースだから無視と言ってられません。アンテナが壊れたら飛行不能で修理に何日もかかってしまいますからね。

ですからAbuse Loadに対する検討は重要なのです。

 

公共の天文台は一般の人に望遠鏡を覗いてもらうことを前提としていますので、子供が脚立から落ちそうになって接眼部を掴むことも想定して頑丈に作っていると思います。望遠鏡が壊れたら他の人に見て貰えないし、何よりも気まずいですからね。

ここで言う「頑丈」とは剛性のことではなく、強度のことを主に差します。

 

一方私の5cmはそれなりに高剛性であり、どの姿勢でも光軸のずれはありませんが、望遠鏡を破壊させるのに大きな力は必要ありません。ほとんどの部品が片手で握りつぶせます。

私一人が使用するのなら、Weak Pointを把握しているので巨大なAbuse Loadを負荷することがありませんが、私以外、特にベテランの人だと、金属製の丈夫な鏡筒を取り扱うのと同じ感覚で操作されることがあると思います。
その為私は以下の運用方法を適用しました。

 

鏡筒は架台(マウント)の上に置くだけにし、接眼部を上方に引っ張るような小さな望遠鏡に対して巨大なAbuse Load(例えばアイピースを抜く途中に接眼部で引っかかってしまうような荷重)には望遠鏡が浮き上がることで破壊防止(Figure 1参照)
5cm_dob2

 

Figure2のように接眼部を下向きに押すAbuseLoad(例えば鉛直サポートをネジで固定したまま低い天体を見ようとして鏡筒に下向きの力をかける)はマウント部の鉛直サポート部のReaction Force(反力)とのセットで発生したせん断力/モーメントがUTA(Upper Cage Assembly)やトラス棒を破壊する可能性があります。
5cm_dob3

その破壊を防ぐのがFigure3。大きな力が作用するとUTAUpper Tube Assembly)がトラス棒から外れる仕組み。まあ、ネジでトラス棒の固定をしていないだけのことですけどね。

5cm_dob4

トラス棒から外れたUTA1分以内で復旧しますので何の問題もありません。

このような過負荷で壊れる部分のことを構造の分野でもヒューズと言います。電気回路でも同様ですが、ヒューズをうまく使いこなすのが重要ですね。

 

これがこれまでのコンセプト。

しかし望遠鏡を架台に固定せずにそっと置いておくだけでは先日発生した落下事故を防げません。

そこでこれまでの携帯性、操作性を犠牲にすることなく望遠鏡を固定する方法を考案しました。

これについては試作が終わった段階で紹介しますね。