近赤外電視観望をすれば、東京の部屋からメシエはもちろんそれ以外の銀河も捉えられますよね。

私は一つの天体に集中し掘り下げるというより、様々な天体を楽しむ方ですので、これまで私の記憶から面白そうな天体を選んで紹介してきました。

このやり方では見落とすものも多数出てきますから、Back to Basicということで、米国人のAlvin Huey氏(120cmドブソニアン所有)が作成しているリストを読み直そうと思っています。

IMG_4672

せっかくですから、この機会に彼のリストに関する情報を何回かに分けて皆さんに紹介しますね。
コアなDeep Skyファン必見です。

まずは著者Alvinの紹介を彼が行った講演時の私のメモに基づき行います。この講演は2011年のオレゴン・スター・パーティで開催されました。タイトルは”Observe Galaxy Groups and Clusters”

それでは私のその時のメモを最近東京の部屋から5cm反射で撮像したイメージも添えて紹介します。

alvin
 
写真はHickson、ARP、Abelといった銀河のカタログに関するガイドブックを作成され、 日本の一部の方にも人気があるAlvin Hueyさんとその娘さんです。

この写真はFaintfuzzies.comから転用させていただいています。
彼は娘も小さく若く見えますが、30年以上も天体観察を続けているベテランです。

講演ではまず、彼が最も興味を持っている銀河団のうち、Hickson, Shakhbazian及びRose等に ついての説明がありました。

私はRoseカタログの天体観察をまだしていないのですが、Hicksonとかよりもっとコンパクトで あり、全部が木星の大きさでカバーされてしまうものもある為、かなり難しいようです。(18inch 以上の望遠鏡と良い空が必要とのこと)

また、どのカタログだか忘れましたが最も明るいものが17等星という説明があった時は、 会場にいた50名程度の聴講者(90%以上が60歳以上の大ベテラン)が一斉に肩をすくめるというか ため息をつくかといった微妙な表情をしました。

さて、Alvinがしてくれた話を覚えている範囲で箇条書きにして紹介しましょう。(話に一貫性 がないのは途中でランダムに出て来た質問に答えた為です。ご容赦ください)


・彼はHCG92(ステファン・クインテット)を6in(15cm)で全部確認したことがある。

・セイファートの六つ子(HCG79)は空の条件の良い日に22inchで10回くらいチャレンジしてようやく 全てを把握することができたとのこと。まだ4回しかチャレンジおらず、しかも結構明るい所で挑戦 している私が全てを把握できないのも無理ないですね。
hcg79aab

・HCGの99%は16inchで観ることができると彼は説明した。

・Roseカタログの中で面白いものはRose7(HCG61:The Box)。確認が困難だけど興味深いのが うしかい座のRose33。7.8等星の恒星のすぐ近く(30”)のところに4つの小さな銀河がある。(ベテラン 観測者が821倍の倍率でようやく確認したそうだ)
theBox2

・Shakhbazian(米国人も発音が難しくてわからないと言っていた)カタログは16番が面白い。これは Arpも330としてカタログしているもので、Sの字を開いたような感じに配列している。

・こぐま座にあるShakhbazian166(AGC2247)も銀河が一列に並んでいて印象的。

・銀河団の観察には大きな口径が重要(Aperture Wins!)。その他暗い空、安定したシーイングも 当然ながら欠かせない。暗い銀河の観察にはWiggle(望遠鏡を叩いて視野内の像を小刻みに揺らすテクニック) が有効である。

・Alvinは22inchでは通常300~400倍で銀河を観察しているが、場合によっては800倍以上にすることも ある。倍率を高くしてバックを暗くすることがコツである。

・アイピースはイーソスやザイス(ツアイスのこと)等色々持っているが、7mm以下の使用率が最も高い。

・導入の時は低倍率のものを使っているが、Panoptic24mmを使うことが多い。これはアメリカンサイズで 最も視野が広いからである。(高倍率のアイピースもアメリカンサイズなのでアダプターの付け替え等が 必要にならない。)

・2009年にイーソス6mmとザイス(ZAO-II)6mmを用いてNGC6745(こと座のTriple Galaxy)を比較観察した ところ、ザイスの方が詳細がわかり、ザイスで見えた17等級台の恒星がイーソスでは見えなかった。これは 初心者による観察でも同様な傾向があり、レンズ構成のシンプルさに起因していると思われる。(彼は4 Elements vs 9 Elementsと表現)
n6745aa

・ZAO-IIは入手が困難であるが、University Optics HD OrthoscopicsやBaader Genuine Orthoscopics、 日本製のオルソでも同様な傾向を示すので、詳細観察にはシンプルなアイピースを使うことが重要。

・Eye Guards(接眼キャップ)は詳細観察に有効。もししっかりしたものが無かったら、Agena Astroproducts等 から購入できる。

・Dark Sky Apparelが出している大きなフード付きベスト(私も持っており、当HPも独り言のコーナーで 紹介しています。)はかなり便利。8本のアイピースを携帯でき、身体の熱で露知らず、アイピース交換の為に 脚立から降りる必要もない。また、どんなに暗い場所でも若干の光が邪魔をするので、フードを被った観察は 快適である。

・より詳細に観察する為、望遠鏡を22インチから30インチ変更し、今は48インチ(120cm)を使い始めている。 ストレールレシオは0.95で大口径には充分な精度である。これを使うとNGC3842(AGC1367の一部で12.9等)のすぐ 近くになる3つのクエーサーが見えた。その時NGC3842が明るすぎて困ったそうである。
agc1367ab

・因みに彼は21等級の天体を見たことがあるとの説明があった。

 以上のようにDeepを通り越してクレージーな講演でした。

 
それからAlvinがオレゴン・スター・パーティ中に行った天体観察のメモ(日記)は以下のサイトにあります。

彼のクレージーさがよくわかると思いますが、今日の電視観望システムなら彼がオレゴンで22inchを使って行った観察以上の成果がより小口径で得られますよね。
 

私はAlvinの本を3冊持っていますので、今後の他の本の出版予定について講演後に尋ねてみました。すると「本を出すのは疲れるので、今後ウェブサイトに全て載せることにする。お金を取らないから勝手にダウンロードして楽しんでくれ」との回答が、、。

超太っ腹です。
次回以降に彼が発表しているリスト(無料でダウンロードできるもの)について紹介しますね。


蛇足ですが2011年はAlvinと同様、私も現地において仕事仲間のChrisの100cmドブでDSOの観察をしました。
そのレポートも紹介します。

Chrisは「前日にDeepな観察をしたので、今晩(土曜の夜)はBus Driverに専念する。 みんなどこでも行きたいところを言うように」と言い、希望する天体を次々に見せてくれました。
chris1

天体を観察する時にとても役に立ったのがFilter Slider。O-ⅢやUHCを使うと惑星状星雲や散光星雲のみ ならず、銀河の腕も見え方が変わって面白かったです。では主な天体を見た印象を以下に示します

☆NGC4565
一番最初は運転手の希望で彼が最も好きなNGC4565を導入。地平線すれすれでしたが、空が良かった為 暗黒帯も見えましたが、私のドブで条件の良い時に見るよりも見栄えがしませんでした。

☆二重星団
月があまりにも明るいので月の反対側の星団を見ようということになり、初心者の若い人からの リクエストで見ました。若干光軸のずれがあるようで、星が点状にならずすっきりとした像ではありませんでしたが、 2つの星団の中間に位置する赤い星が鮮やかで印象的でした。(一応視野ぎりぎりに2つの星団の中心が見えていました。)

☆M16/M17/M20
低空で近くの月の影響もあったため、ノーフィルターではいまひとつでしたが、O-ⅢやUHC越しでは それぞれ異なる表情を見せ、かなり外側まで広がる淡い星雲部と、シャープに切れ込んだ暗黒部 が素晴らしかったです。

☆NGC7510
これもバスドライバーのお奨め。私の好きな星団でもあり、同じようなものが好きだとわかって嬉しくなりました。 でもこの星団はもう少し低倍率でごちゃごちゃに並んでいる様子を見るほうが好きです。

☆球状星団
その他M52、NGC663等の散開星団を一通り見たら見るものが無くなったので、私のリクエストによりメシエの球状星団 めぐりを開始。どれも視野一杯に星が広がり、小口径で見られるようなスターチェーンは認識できない。ともあれ 凄い迫力でした。

☆NGC7009
誰かが木星状星雲を見たいと叫んだのですが地平線下である為、代わりに土星状星雲を眺めました。内部構造はよくわからなかったのですが、アンテナ部分がすごく明るく目立っていたのが印象的でした。

☆M57
明るさが半端でなく素晴らしい眺めでした。ただ、楽に見えると思っていた中心星はよくわからず、、。 そのことをChrisに話すと「アメリカでは惑星状星雲を見るとみんな中心星の話をしてしまうな!どうやら日本も同じ ようだな」と、、。
M57の視野を少し振りIC1296に向けると、S字型の腕の部分がよくわかりました。こんなに簡単に見えるなんて、、。

☆M51
第一印象は腕が細い!!ということです。その腕にもそして腕と腕の間も様々な濃淡があり、雲状のところや 恒星、暗黒帯等色々な構があって、見飽きません。Chrisの指示に従いUHCやO-Ⅲフィルターを通して観ると、 表情ががらりと変わるとともに見える構造が異なって面白かったです。これまで銀河にフィルターは効果がない という通説を信じていましたが、あっさり崩れました。

☆M33
写真よりももっと階調豊かに見えました。そして大きい!!フィルターを使うとH-Ⅱ領域の構造もよくわかり、 探査機から見たような感覚になりました。

☆キャッツアイ
光軸の僅かなずれとシーイングの影響及びあまり高倍率ではなかったことが災いし、詳細構造が把握できま せんでしたが、見事なエメラルドグリーンで、宝石のようでした。この色は写真では決して表現できないし、 20インチクラスの中口径(?)でも無理だと思います。(何人かの人がキャツアイが一番良かったと言っていました。)

☆M76
これは凄い!!Little Dumbbellはどこにあるのだろうと思ってしまうほど様々な濃淡のガスが広がり、 今まで観たことがない光景でした。

☆ARP330
私の好きなARP331と勘違いして接眼部を覗いた為、最初は何が見えているのかわかりませんでしたが、 じっくり観ると15~18等級の銀河が明るい恒星の近くにインテグラルの鏡像状に並んでいるのが見えました。 この配列は興味深かったです。

☆NGC891
じっくり観ると暗黒帯の中にも複雑な構造が存在していることがわかります。また、近くのAGC347に筒を 向けるとたくさんの銀河が目に飛び込んできて、とても賑やかでした。

☆NGC253
Chrisがお奨めと言ってた銀河。高度が15度位であったにもかかわらず、複雑過ぎて表現できない ほどの構造が見えていました。

☆ステファンクインテット
そらし目なしで5つが見えるだけでなく、それぞれの腕らしき構造が見えて圧巻。前の日に25cmで必死になって そらし目で5つ目を確認しようとしたのが嘘のようでした。

 
なお、Chrisはその後私と一緒にドブ改修計画を立てて実行した結果、数年後には恐ろしいほどよく見える光軸完璧なドブに生まれ変わりました。

4年後の観察記事がこれです。

見せてもらったのはM33。これまで何度か観せられていたので、あまり期待せずに覗いたところ、あまりの衝撃の為ラダーから落ちそうになりました。
UHCフィルタ越しではHII領域がいくつあるのか数えられないほど。
NGC604は詳細構造がよくわかり、ノーフィルターにすると中心部が眩しい!
目を凝らす(そらし眼ではない)と中心部の腕の複雑な流れがたくさんの星やHII領域等と同時にわかり絶景です。
「12時の方向に何かあるだろう。それは超新星残骸だ。」というクリスの説明の方向に目をやると、確かにそれらしいものが、、。
視野内はこれまで私が見かけたどんな写真よりも詳細に構造が見えていました。写真は目に比べてラチチュードが狭いので仕方がないのでしょう。
後からPCでスバル望遠鏡が2009年に撮影したという画像と比べましたが、クリスの望遠鏡の方が何倍も凄かったです。一般に発表されている写真はスバル望遠鏡の原版より解像度が落とされているでしょうからスバルを超えたとは言えませんが、、。
シアトルに戻ってからアイピースのことをクリスに尋ねたらイーソス21mmを使っていたとのこと。最近新調していたようです。
優秀な鏡、光軸の追い込みと適切な射出瞳が超大型天文台の画像に匹敵するような像を見せてくれたのだと思います。
 

今回紹介したAlivn、Chirsとも大口径のドブを礁有しているだけでなく、よく調整されていて見え味が半端ないんです。

ほんとに凄い人たちですね。