今回もかなり辛口の内容です。

国際天文学連合(IAU:International Astronomical Union)ってご存じでしょうか?
世界80か国以上の天文学者13000人以上が参加している国際的な超頭の良い人が集まっている組織です。
わかり易い説明はここをどうぞ
この組織は以前に冥王星を惑星から外しました。それにより眼視で水星から冥王星までの全ての惑星を観たという私の自慢が無くなるという悲しい思い出を作った憎き組織です。水星から海王星までだったら見たことある人多いですから、、。
あっ、憎いというのはもちろん冗談ですけどね。

このIAUが2020年~2030年戦略計画(Strategic Plan)を出していたので、数か月前に英語版を読み立派な取り組みに感心しました。リンクはこれ↓
 
特に私が感銘を受けたのはThe Office for Astronomy Outreach (OAO:天文普及室)が日本の国立天文台と共同で事業を行うことが明記されていたことです。日本が世界の天文普及をリードすることを誇らしく思いました。
iau


戦略計画に記されている文章は以下の通り。
「IAUは、OAOと各国のアウトリーチコーディネーターを通じ、天文学に関する一般市民の認知度を高め、国際的なアウトリーチキャンペーンを計画・運営し、アマチュア天文家との関係を維持することに努めている」

上記は英語版のStrategic Planと同じところに格納されていた日本語版からの引用なのですが、いくつかの疑問が浮かんできました。例えば、日本におけるアウトリーチコーディネーターって誰?とかアマチュア天文家との関係維持ってどういうこと?とか、、。

コロナ騒ぎの前までは日本国内で公共の天文台、天文普及委員会や大学、メーカー及びアマチュアによる一般市民への観望会が頻繁に行われており、初心者用望遠鏡の(有料)配布までされておりましたが、アマチュア天文家に対する働きかけというのを私は耳にしたことがありません。

じゃあ、具体的な戦略って何だろうと思い、日本語版を詳しく読んでみました。
なお、戦略計画は英語版の他には日本語版しかありません。IAUの会員数は日本人が3位ということなので、英語が苦手な日本人の為だけに和訳版を置いたのでしょう。

しかし、その訳がひどい。

2020-2030年のOAOのアクション
– NOC のネットワークを拡大し、その効果を再編し確実なものにする。
– 交流と翻訳を通じて国際的なコミュニケーションを支援する。
– 公開データベースと市民にわかりやすい天文情報へのアクセスを提供する。
– IAU メンバーの市民との関わり、専門家とアマチュアの交流、一般市民の科学活動を通じて科学と批判的思考のコミュニケーションを奨励する。
– 暗い空とペイル・ブルー・ドットのメッセージを発信する。

意味が分かりますか?
「効果を再編する」って何?
「批判的思考のコミュニケーションを奨励する」って??
「ペイル・ブルー・ドットのメッセージ」とは?

因みに原文はこれです。
Actions for the OAO for the decade 2020–2030
– Increase the network of NOCs; restructure and ensure their effectiveness.
– Facilitate international communication through exchanges and translations.
– Provide open databases and public-friendly access to astronomical information.
–Encourage communication of science and critical thinking through IAU member public engagement, professional-amateur, and citizen science activities.
– Promote dark skies and the pale blue dot message.

「効果の再編」じゃなくて、「効果を確保できるようネットワークを再編・拡大する」の方がわかり易いですね。
それから「批判的思考」っていうのもわかり難いですよね。批判という言葉の意味は

1. 物事に検討を加えて、判定・評価すること。「事の適否を批判する」「批判力を養う」
2. 人の言動・仕事などの誤りや欠点を指摘し、正すべきであるとして論じること。「周囲の批判を受ける」「政府を批判する」
3. 哲学で、認識・学説の基盤を原理的に研究し、その成立する条件などを明らかにすること。

訳者は上記1の意味で訳されているのでしょうが、2の意味を思い浮かべる人もいる筈ですので、もう少し細かい説明が必要です。(批判的思考は以前に学者が訳した結果、既に専門用語になっているようですが、一般人には伝わらないですよね)
「データや情報を正しく評価して間違いのない判断を下すという教育的思考作業」とか如何でしょうか?

「Pale Blue Dot」は1990年に地球から60億キロ離れたボイジャー宇宙船から写した点のような地球のことで、「宇宙に比べたらとても小さな地球を守ろう」というメッセージだと思います。

その他にもおかしな訳が散見されますね。

日本語版は翻訳機から出てきたものを吟味せずに載せている感じです。
学者は頭が良いので、このような端折った和訳でも判るのでしょうが、私のような凡人には???です。

意味が分かりにくいので日本国内の各組織に戦略をフローダウンできず、取り組みが進んでいないんじゃないかと勘繰ってしまいます。

話が少し逸れます。
これまで私は何人かの日本の天文学者の英語によるSNSを拝見したことがありますが、多くは幼稚園児か小学生低学年が話すような英語で、大人の議論ができそうにありませんでした。
欧米人は変な英語でも理解しようと努力し、日本人の間違いを指摘しないので、本人はなかなか気づかないのですよね。

それからアメリカのSky&Telescope誌の投稿規定にもBe動詞を多用した稚拙な英語は勘弁みたいなことが含まれていました。
-Favor active verbs, and avoid the overuse of "is," "are," and all other incarnations of “to be” (the most boring verb in the English language)
へんてこりんな英語で投稿してくる人が日本人に限らず結構いるということですね。

近いうちに翻訳機がコミュニケーションエラーを解消してくれるという期待を持つことは構いませんが、Pale Blue DotとかCritical Thinkingといったイデオムが文脈から正しく訳されるにはまだ時間がかかると思います。
ですからしばらくは英語の勉強は必要ですよ。

IAU会員や国立天文台の皆様には英語を正しく理解して国民がわかる言葉に翻訳し、天文普及に関して世界をリードするとともに我々アマチュアのコミュニケーション(maintains a relationship with amateur astronomers)維持についても、お願いしたいものです。
給与等に税金を使うのでしたら、、。